天沢夏月「そして、君のいない九月がくる」感想

天沢夏月先生の「そして、君のいない九月がくる」を読みました。ネタバレを含む感想を書いているのでネタバレが苦手な方はお読み頂く事をお控えくださいませ。

表紙絵の女の子はヒロインの美穂。男の子は主人公の恵太。主人公と書きつつもほとんど登場しません。

 

バッサリ書くと高校生の男の子3人と女の子2人の青春小説でした。私自身青春小説が苦手な人間で「そして、君のいない九月がくる」も読んでいる最中に「あぁ、この手の青春小説は苦手だ」となりながらも読み終えました。

 

好きなんですけどね、青春小説。ただ読んでいると恥ずかしくなってしまってどういう顔をして読めば良いのか分からなくなるんだよ。主に自宅で本を読んでいるので無表情で読めば良いのですが、本当に読んでいると何故か恥ずかしくなるから無表情を貫き通せないという。

 

たぶん同じような人は私以外にも居るはずと信じている。

 

また、個人的に厄介だったのは私運動嫌いなんですよね。なので「陸上部」や「バレーボール部」とか「長距離走」という単語を聞くだけでも結構ダメでその点でも「この本読み切れないかもしれない」という不安が有りましたが読めました。

 

けど、キャンプへ行こうとは思いません。今後も永遠に

 

 

あらすじ

高校3年生の美穂、恵太、莉乃、大輝、舜の5人は夏休みに烏蝶山へキャンプへ行く約束をしていた。

 

しかし、夏休みになる前に恵太が事故で亡くなってしまう。「山へキャンプへ行こう」と言いだした恵太が亡くなってしまい残り4人でキャンプへ行く予定はなくなった。しかし、恵太が亡くなった事故現場はキャンプで行く予定だった烏蝶山だった。

 

4人は「恵太が亡くなった理由が事故ではないのではないか」と思いつつも夏休みを迎えた。

 

その中でのある日、美穂は自宅で気分が沈んでいた時に外から自分の名前を呼ばれる声が聞こえた。その声の主は亡くなったはずの恵太の姿をしたケイというドッペルゲンガーだった。

 

ドッペルゲンガーのケイは恵太が亡くなった所まで来て恵太の願いをかなえて欲しいと美穂に伝え、4人とケイは恵太の亡くなった烏蝶山まで行く事になる。

 

登場人物

主な登場人物は以下の5人。

 

・結城恵太

・花野美穂

・西園莉乃

・横山大樹

・榎本舜

 

メインとなる登場人物が5人というのはなかなか多い。登場人物1人1人ずつの視点で物語がそれぞれ書かれるのですが厚くは書かれていませんでした。なので、全員を小説の中で掘り下げられてはいなかったので個人的には上記の5人誰にも強い感情を持つ事が出来なかった。

 

その分キャラクターに潜入する事無く客観的には読む事が出来たんですけどね。

 

また、性格の違う5人が居る事により、高校生の時に味わうで良い感情または悪い感情が網羅されているようにも感じた。

 

結城恵太

最初から亡くなっている主人公。恵太より恵太のドッペルゲンガーのケイの方が主に登場しているので恵太を主人公としてよいのか分かりませんが私の中では恵太が主人公でした。

 

陸上部に入っていて、短距離でインターハイに出る程の実力の持ち主。

 

両親が離婚し、父親に引き取られ父親と2人暮らし。父親が多少DV気質の父親で恵太自身が「僕は必要ない」と思い、自殺をし、死ぬ事を考えていた。

 

花野美穂

ヒロイン。恵太の短距離走を見て短距離を始めた。先生には「長距離の方が向いてるんじゃないか?」と言われているが、恵太の短距離に惚れて短距離を続けている。

 

「ザ・ヒロイン」という性格で真っ直ぐ。困っている人を絶対に助けるタイプの人間が美穂です。

 

美穂が恵太の家の都合を知っていたり恵太が「自殺したい」と美穂に伝えて居たら美穂は毎日恵太に電話してるんじゃないかと個人的に思っている。たぶん、美穂は見知らぬ人が「死にたい」と言っていても助けるタイプの人間。本当に良い子でした。

 

西園莉乃

ヒロインとは真逆で物事を結構疑う性格の持ち主。ケイの事も最初はほとんど信用していませんでした。寧ろ莉乃のような反応が普通の人の反応だとは思うけど。

 

莉乃を除く4人は体育会系ですが、莉乃は文化系で運動が苦手。なので、歩いて烏蝶山へ向かっている最中、浮いているドッペルゲンガーのケイに苛立ちが隠せなかった。

 

莉乃だけが恵太と恵太の父の関係を知っていた。そして、恵太が「死にたいと思う」という事も莉乃だけが知っていた。なので、莉乃は恵太の死が事故ではなくて自殺であり、かつ防げなかった自分が悪いと思っていた。

 

莉乃はヒロインとは違って強気な発言が多いですが、5人の中で1番人の心が分かる子だと思いました。

 

横山大樹

恵太より大樹の方が主人公の雰囲気がありました。

 

大樹と恵太は美穂の事が好きで、大輝は恵太に嫉妬しており、美穂に嘘をついてしまった。つまり、大樹と恵太の間は恋のライバルのような関係でした。しかし、美穂は恵太の事が好きで大樹もその事を知っていました。なので、より美穂は恵太の事を気にかける事が嫌だった。

 

それは恵太のドッペルゲンガーのケイに対しても同様であり、美穂がケイに気に掛けると大樹は不機嫌になる。

 

偏見かもしれませんが、大樹のような男性は世の中に沢山居るように感じます。

 

榎本舜

陸上部で、恵太とは陸上でのライバルという間柄でした。

 

序盤の章で舜目線で物語が書かれますが、結構重い話でした。「そして、君のいない九月がくる」の中では1番舜の内容が暗い話のように感じました。

 

舜は恵太に「お前さえいなければ俺がインターハイに出れたのに!」と伝えた事により、恵太が自殺してしまったのではないか?と思っていたのです。ケイに「恵太の死は自己だった」と言われても舜は「俺のせいだ」と考えてしまう。

 

確かに「お前さえいなければ」という発言はよろしくないですが、「自分のせいで恵太が死んだ」と自分を責めている点からも舜の人間の良さが伝わる。

 

世界五分前仮説

ドッペルゲンガーとかありえない!」と思う方へお送りする言葉があります。「そして、君のいない九月がくる」という本は創作物であり小説です。実際の物語ではありません。

 

っと書きつつも私は読み終えた現在も「ドッペルゲンガーを使用するとはなかなか強気な姿勢だな」と思っています。

 

けど、ちょっと読み直してみて最初のページから数ページの「世界五分前仮説」について語られている所を読み直すと「あぁ、こういうのも有りかな」と思えるようになりました。

 

「世界五分前仮説」とは世界が五分前に作られたという考えです。私の「ドッペルゲンガーとかありえない」という感情を含め私の存在も五分前に出来たという説です。

 

そう考えると結構納得出来ませんか。

 

この「世界五分前仮説」は最初から最後まで何となく頭に入れて読むべきだったなぁと読み終えた後多少後悔しています。

 

恵太から美穂への遺言

「そして、君のいない九月がくる」の中で私にとっての最大の見せ場がこのシーン。

最後の見開き1ページで語られたのが恵太から美穂への遺言です。見開き1ページを長いのか短いのかは読み手の感覚ですが、私にとっては大変短い。

 

その短い間で読み手を泣かしに来ているのが「そして、君のいない九月がくる」です。

 

途中から読んでいて「あぁ、たぶん美穂が死んでいるんだろうなぁ」と思い予測通りの結果になりました。しかし、いつ読んでも残された人に対しての「遺書」や「遺言」系統の話にはどうしても泣かされてしまう。

 

この本の中では恵太から美穂に対しての遺言。その後に遺言を届けた恵太のドッペルゲンガーのケイは居なくなります。そして、本当にこの世から恵太もケイも消えたのです。

 

よくあるパターンなので日ごろ多くの本を読んでいる人にとっては「またこのパターンか」と思われてしまうかもしれませんが、私は「またこのパターンか、うん泣ける」というタイプの人間なので泣きました。

 

「そして、君のいない九月がくる」を読み終えて

上記で散々「青春小説は読んでいると恥ずかしくなる」と書き若干この本に対しての嫌悪感を書きましたが感動させていただいた。「読んでいて恥ずかしい」と思うのは最初から後半までで、後半からは感動させに来ていました。

 

1つ気になる点では、最後のシーンで美穂のドッペルゲンガーが崖から飛び降りるのは「ちょっと無理やりじゃないか?」と思ったぐらいです。

 

ドッペルゲンガーであってもね。なんかちょっと納得できない。

 

個人的にいぬじゅん先生の「夢の終わりで、君に会いたい。」に似ている本でした。恵太と美穂の関係と「夢の終わりで、君に会いたい。」の主人公とヒロインの関係が似ている。「夢の終わりで、君に会いたい。」は2人とも生きてるんですけどね。

 

mikanbook.hatenablog.jp

 

「そして、君のいない九月がくる」をオススメな人

・軽い青春小説を読みちょっと泣きたい人

分類はライトノベルでもちろん軽く読める本ですが、1章1章が短いのでよりサクサク読める印象でした。一応ミステリー部類に入る内容でもありますが、考えながら読む内容ではないので、軽く読めます。

 

しかし、軽く読んで「あぁ、もうこの本読み終わるわ」という所に泣かせるシーンが見開き1ページでやってくるのでお気をつけを。

 

・若い時に友達が居なかった人

本当に友達が1人も居なかった人にはオススメできませんが、私のように「親しい友達は居ない青春時代」を過ごした人にはオススメしたい。友達とキャンプどころかテーマパークすら私は行った事無いからね。疑似体験できます、この本では。

 

・スタンドバイミーが好きな人

また、「スタンドバイミー」という洋画も多少テーマにしている作品でもあり、文中にもよくスタンドバイミーについて書かれていました。私は個人的に洋画が苦手なので見て居ませんが、スタンドバイミーが好きな人は1度読んでみるのがオススメできそう。

 

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