杉井光「終わる世界のアルバム」感想

杉井光先生の「終わる世界のアルバム」を読みました。ネタバレを含む感想を書いているのでネタバレが苦手な方はお読み頂く事をお控えくださいませ。

 

表紙絵の女の子はヒロインの水島奈月じゃないかなと。最初はもう1人ヒロインっぽい女の子の莉子なのかなぁ?っと思っていましたがたぶん奈月であっていると思います。

 

文中では「奈月の髪は黒」という記載があったので、「表紙絵の女の子黒じゃないし!じゃあ誰だよ!」っとなりました。

 

周りに散っている写真は主人公のマコが撮影した写真です。カラー写真なので、恐らくマコが主に使用していた旧式のカメラで自分で現像するカメラではなく、デジカメで撮影した写真でしょう。

 

奈月と出会ってからはデジカメで写真を撮っていたので、その辺りからも写真の女の子は奈月と特定が出来そうです。

 

 

あらすじ

人が突然消えるようになった。しかし、周りの人は消えた人の記憶を一切覚えていない。その世界から「死」が無くなった世界で中学3年生の主人公のマコは写真を撮り続ける。手軽なデジカメではなく、旧式の古いカメラの白黒の写真を自分で現像している。

 

マコがデジカメではなく、旧式のカメラに拘る理由は、旧式のカメラで写真を撮影し、その写真に写っている人が例え世界から消えたとしてもマコは消えた人の記憶を覚えているから。

 

マコは毎日登校した際に「このクラスに消えた人は居ない事」を確認するために教室内の机の数を数える事を日課としている。中学校卒業間近の2月のある日、1つ机が増えている事に気づいたマコ。

 

その机を使用している生徒はマコには一切記憶になかった奈月であった。マコだけではなく、他の生徒も奈月の事は名前だけは覚えているけど、他の事は一切覚えていないようだった。

 

マコは奈月の写真を撮った事が無いので何とか撮影を試みようとするものの奈月は極端に写真に写る事を嫌っていた。マコは不思議に思ったが、マコと奈月は2人で公園でラジオを聞く程の仲になっていく。

 

登場人物

主な登場人物以下の3人。

 

主人公:マコ

ヒロイン:水島奈月

主人公とヒロインの同級生:莉子

 

上記の3人は全員中学3年生。取り扱っている題材が大変重く、その中の世界観に居るメインの登場人物は誰も中学生には思えなかったので、私の中では全員高校3年生に昇格されています。

 

他にも「写真部の顧問の先生の須藤先生」や「カメラ屋のおじさん」、「DJサトシ」を代表とする登場回数は少ないものの印象に残るキャラクターが出て居ました。

 

須藤先生は私好みのイケメンな先生。カメラ屋のおじさんはかなり性格がひねくれているけど、優しいおじさんなんだと思う。一度消えたんじゃないかと思ったDJサトシが最後に復活してくれて私は大変嬉しかった。

 

もう1人印象深いキャラクターとしては莉子のお母さんの恭子さんでしょうか。読んでいる途中で「恭子さんは消えてしまうのではないか?」と思いながら読んでいて案の定消えてしまった時は失望感しかなかった。

 

かつ、莉子が何となく「誰かが消えてしまったのではないか?」と勘づいている事に涙が出そうになったよ。明確に「大切な家族が消えてしまった」という事が分からないけど、薄っすら「誰かが消えたのではないか?」と思いながらこの先も莉子は生きて行くと考えると悲しい。

 

主人公:マコ

「死」が無くなった世界で亡くなった人の記憶を持ち続ける事が出来る。写真部に所属していて、部員はマコ1人。両親は既に消えているが、両親の記憶ももちろん所有している。

 

一体どういう気持ちで生きて居るんだろうね、と考えると悲しくなれる。主人公が淡々と人の死を受け入れるがこれは「人の死を見慣れている」わけではなく、淡々と受け入れないと精神的に参ってしまからかなと。

 

また、マコの性格が多少ひねくれてたのが良かった。最初の写真部顧問の須藤先生との会話やカメラ屋のおじさんとの会話はずっと見ていても飽きないはず。

 

けど、マコのひねくれた性格もこの「人の死を覚えている能力」のためじゃないかと考えると心が痛む。

 

ヒロイン:水島奈月

突然現れたクラスメイト。最後まで詳しい事があまり書かれていなくてこの物語の謎さと静かさが強調されるヒロイン。

 

主人公もそうですが、ヒロインの奈月の性格も好き嫌いが分れそうな性格でちょっと我儘な所が有ります。主人公が奈月の事を「水島さん」と呼んだ時に「その呼び名はやめて!」と怒ったり、一方的に怒ったりする女の子でもしかして消えかけ都合で情緒不安定になってしまったのではないかなと考えたりもしました。

 

それでも最後は主人公に謝るので「このツンデレが!」と思っていました。

 

我儘な女の子が好きな方は奈月はオススメ出来る。似てる性格のキャラクターとして思い浮かべたのは「とらドラ!」の逢坂大河

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莉子

マコの隣の家に住んでいるマコの幼馴染で、昔はマコの写真のモデルを行っていたと自らは言っている。奈月が消える前は友達で、世界に再び現れた時も奈月とは友達で卒業までの1ヶ月間一緒に買い物へ行くぐらい仲が良かった。

 

料理が下手で、恐らく家事全般苦手。吹奏楽部に所属している。

 

最初は莉子がヒロインになるのかなーと思いながら読んでいて、性格も明るくてヒロイン感を漂わせていました。

 

「終わる世界のアルバム」を読み終えて

「大変面白い!」と言える作品ではない。メディアワークス文庫ライトノベルの分類。個人的にはライトノベル大半がハッピーエンドという偏見を持ちながら読んでいました。

 

けど、終始一貫としてバットエンドの雰囲気が漂っていました。その中に奈月とマコの淡い恋愛要素が入っているので、その部分がより際立つ。

 

そして、最終的には奈月も世界から消えてしまうという心悲しい結果になるのです。

 

マコが奈月と深い間柄という事を思い出してからの奈月が消えてしまうという。かつ、マコは最後まで奈月の写真を撮影する事は出来ませんでした。

 

一応、マコは写真を現像しなくても奈月の記憶をずっと覚えている雰囲気の終わり方だったので、奈月にとってはハッピーエンドだったのは唯一の救い。

 

それでもマコは苦しいだろうなぁと。

 

世界から「死」が消えるという事

厳密に書くと「世界から死が消えた」と書くよりも「死んだ事を忘れてしまう世界」の方が正しいのかなと。確実に人は消えて死んでしまったと同じようになってしまっているので。

 

「人が死んだ事を忘れる」って良い事なのか悪い事なのか「終わる世界のアルバム」を読み終えて2日間ちょっと考えたのですが答えがなかなか出ませんでした。良い事も悪い事も亡くなった相手の事を全て忘れてしまう事になるのですが、どうなんでしょうね。

 

マコみたいに覚え続ける事も素敵な事だと思うけど、大切な人の死によって日常生活もままならないぐらいに落ち込む人も居るわけで。仮に私が後者なら「頼むからこの記憶を忘れさせてくれ」と思う事でしょう。

 

「何も前触れもなく人が消える」というのは不条理ですが、「大切な人の死だけではなく、大切な人そのものを忘れる」という事が出来るのはある意味幸せなのかもしれない。

 

DJサトシ復活

最後にDJサトシが復活するんですよね、この物語。途中からラジオで流されていたDJサトシのコーナーが無くなり、奈月とマコはDJサトシが世界から消えたと思っていたのですが。

 

もしかして、と考えたのは後半のシーンでDJサトシの自宅と思われる場所で奈月とマコは仮眠を摂ります。そして、そのDJサトシの自宅から出る際に奈月は所有していたCDを置いて出て行くのです。

 

その結果、再びDJサトシが復活したんじゃないかなと。こじつけた理由ですが、やはり私は一度DJサトシは世界から一度消えかけた、または消えて再び世界に戻って来たのだと思っています。

 

難解な作品

いろいろと分かりませんでした!というのが第一声の感想。杉井光先生の他の代表作は以下の作品。

 

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実は両方共私は以前読んだ事があるのですが、こんなに難解な作品を書く人だったっけなぁ?と正直思いました。杉井光さんは正直比喩が独特で読み手によって好き嫌いが分れるかもしれません。今回はその独特の比喩によってより難解になっていた可能性は十分にある。

 

「終わる世界のアルバム」で不明な状態で終わったのは大まかに2点。

 

・どうして世界から人の死が消えたのか

最後に海へ行きこの謎が解決するんじゃないかな?と思いましたが謎が解決する事はありませんでした。

 

確かに「大切な人の死」というのは残された人にとっては大変苦痛な事で忘れ去った方が精神的にも良いのかもしれない。けれど、この物語では病気でも何でもないのに人が突然消えてしまう。そして、残された人は消えてしまった人の記憶も忘れている。

 

消えた人の記憶が無くなる点は「神様が消しゴムでかき消した」という主人公の推測がされているがちょっと納得できなかった。

 

この荒廃しきった世界で神様がいて、この荒廃しきった世界を作り上げているのが神で、私が主人公の立場なら神を呪うよ。

 

・1度消えかけた奈月がどうして再び残ったのか

そして奈月は物語の最後に再び消えてしまうわけですが。何故奈月は1度消えてしまったのか。そして、どのようにしてその1度消えかかったのを繋ぎとめる事が出来たのか。

 

また、奈月とマコはどういった関係だったのか。恐らく大変親しい関係だったとは思うのですがあまり深くは書かれていませんでした。

 

ある意味「明確にし過ぎない」という点で読者の想像力を活かす内容で素敵かもしれないです。しかし、「人の死がまるでなかった様な世界」という壮大な着眼点の物語を1冊で終わらせるのは勿体ない!と思いました。続編が出て様々な謎な点が回収される事を個人的には願っている。

 

出来たら粛々と終わりに近づく世界を主人公または莉子の力で食い止めて欲しい。また、今まで消えた人が再び世界に戻れたら尚良い。

 

「終わる世界のアルバム」をオススメな人

・綺麗にまとまった作品を読みたい人

大変難解な作品と書きましたが、そこはやっぱり杉井光先生の力で綺麗にまとまっています。かつ、杉井光先生の独特な世界は全開で切なさは半端ない。

 

・洋楽が好きな人

私は全く洋楽を聞かないので分かりませんが、「終わる世界のアルバム」の中では様々な洋楽が登場しています。私が唯一分かったのはビートルズ

 

申し訳ないのですが、その他のミュージシャンは誰一人として分からなかったので曲名とミュージシャン名を聞いて「あ、この曲だ!」と分かる人は「終わる世界のアルバム」は面白いかなと。

 

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