古宮九時「死を見る僕と、明日死ぬ君の事録」感想

古宮九時先生の「死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録」を読みました。この先からネタバレが含まれているのでネタバレ苦手な方はご遠慮ください。

 

題名からして大変物騒な雰囲気のするお話ですが、その通りで内容もそこそこに物騒。途中から終わりにかけての展開は正直夢に出てくるレベルで怖さを覚えました。普段読書する時間が寝る前の私はそこそこにつらかった。

 

表紙だけ切り取れば「ん?なんの話だ?とりあえず女の子かわいい」で終了しそうですがそれだけでは終わらない。

 

この女の子がショートカットという理由が読んでいると理解出来るので最低限「この女の子はショートカットだ!!」という事を覚えながら読んで頂くと良いのかもしれない。

 

女の子はロングヘアー派なんですけどね、私。

 

 

あらすじ

主人公の「僕」は「死ぬ人が幻視として見えてしまう」という特殊能力を持っている。頻繁に人の死を幻視として見ているがたとえ見ず知らずの人の死だとしても大変つらい事だった。

 

この「幻視」を「彼ら」と主人公は呼んでいた。

 

主人公は学校へは通ってはいなかった。いわゆる不登校。母親は世間の目を気にして外出させたくはないが、主人公は郊外に居る鈴さんに会うために出かけた。

 

この鈴さんは人間ではなく幻視。つまりいつかここで死ぬ人の姿。

 

「日常の話」や「見えた幻視」について鈴さんと会話をする主人公だったがある日この公園で鈴さんの幻視に似た女性に出会う。それは紛れもなく「似た女性」ではなく近い未来または遠い未来に無くなる本物の鈴さんだった。

 

ざっくりとした説明

この物語は14の章とエピローグで構成されている物語です。

 

1章から4章

僕と幻視ではない鈴さんが出会い初めて2人で死ぬはずだった女子高生を助けるお話。

 

5章から8章

電車で女性の自殺に巻き込まれて死ぬはずだった男性とその女性を救うお話。

 

9章から11章

多くの幻視を助けてきた主人公と鈴だが、「突然消える幻視」や「突然濃くなる幻視」の奇妙な幻視に出会う。そして、主人公が鈴に分かれを切り出す話。

 

12章からエピローグ

主人公は過去の自分の事を思い出した事により、奇妙な幻視は「殺人事件によって亡くなる人の幻視」という事を知った主人公は鈴の幻視が今までずっと薄かった事が「殺人事件に巻き込まれて死ぬ」という事と知った。

 

登場人物

主な登場人物は2人

・主人公の僕

・ヒロインの瀬崎鈴子

 

主人公の名前は最後まで分かりませんでした。この物語において主人公の本名はそこまで重要ではないので問題はないでしょう。個人的には日本名よりかは若干キラキラネーム感のある名前だと思ってる。

 

主人公:僕

「幻視が見える」という事で大量殺人事件に目の前で巻き込まれて精神病になるちょっと可哀相な人。確かに小学生の時に目の前で殺人事件起きたら誰でもトラウマになるよ。引きこもりにもなるよ。

 

その僕に対する親がなかなか冷たい印象で残念だった。物語に対してじゃなくて純粋に「この親もっと子どもの事考えろ」って思ったからね。けど、親も「変な物が見えるちょっとヤバイこの子」って思ってストレスを抱えてたんだろう、きっと。最後は両親と主人公が和解している雰囲気で安心した。

 

最後の最後で「主人公が小学生」という事が判明しますが、全く気付かなかった。ずっと大学生だと思いながら私は読んでいました。確かに読み返せば「うん、そうだね。主人公は小学生だ」と思える節が沢山あったので種明かしされる前に分からなかった自分に残念だった。

 

中学生になり幻視が見えなくなった主人公にはこれから過去の事を引きずるなとは言えないけど、引きずり続けても普通の中学生をやり、高校生をやり大学生をやり生きていて欲しい。

 

それでもこんなに行動力があって頭の良い小学生はなかなかいないはず。江戸川コナン君が浮かんでしまった、正直。

 

ヒロイン:瀬崎鈴子

小学生の主人公の話を真摯に受け止めて行動する純粋に良い人。世の中鈴子みたいな人ばかりになれば良いと思ったが、鈴子が運転する車だけには何となく乗りたくない。

 

おっちょこちょいすぎる。それが可愛いんだけどね。そして元気も貰える。時には元気が一瞬で無くなるけど。

何気ない主人公と鈴子の会話が本当に面白かった。永遠に続けてくれ2人で。

 

そして、ただおっちょこちょいなだけじゃなくて頭も回る。実は演技小学生の主人公に合わせてドジなキャラクターを演じてるんじゃないのかと思うレベルで機転が聞く。

 

「鈴子が頭が良い」と思ったのは後半のシーンでベンチの下にバッドを仕込んで居たり、服の下に厚い雑誌を仕込み刺されても多少平気なように対策していた事。

 

純粋に鈴子が「命は何よりも大事だから!」という考えで居ただけの装備なのかもしれないけど。

 

本当に鈴子が生き残って良かったと思う、つまらない言葉だけど。

 

故人:神長智樹

主人公が名乗っていた名前の人物。大量殺人事件で主人公を守る為に犠牲になった人物の1人。たこ焼き好き。たこ焼き食べながら死ぬ予定のレベルでたこ焼き好き。

 

この本を神長智樹のせいでたこ焼きを食べた時に涙が出る事になりかねない。

 

物語の中で登場回数は少ないけれど、智樹が居なければ主人公が生きて居なかった可能性もあるので、物語を作り上げた人物の1人でもある。けど、生きて居て欲しかった。そして、智樹と主人公と鈴子3人でいろいろやれたら良かったのにね。

 

感想

サクサク読めたので読み心地は良かった。特に後半の11章から殺人事件という事が発覚してからは一気に読んでしまった。たぶん物語に引き込まれていたんだと思う。

 

私自身「主人公が小学生」という事を読んでいる最中に見破れなかったのが悔しくて2度読みを真面目に行っていませんが「主人公=小学生」という事を頭に入れて読み直したら絶対に別の観点でも読める作品だと思う。

 

「中学生で幻視が見えなくなった事」だったり「幻視で死ぬ予定だった人の死を回避させた人はどうなるのか」だったり等様々な気になる点は個人的に残る物の、全体としては「うん、連続殺人事件はやっぱり夢に出て来そうで怖い」という感想に尽きる。

 

エピローグを読んで

この大学生になった主人公と鈴は付き合ってるのか?なかなかよく分からない。だとしたら何歳差なんだろうと思ってしまった。たぶん10歳無いぐらいの差だと思うけど。

 

幻視の見えなくなった主人公と幻視ではなくなった鈴子で「幻視繋がり」は無くなってしまってもずっと連絡は取り合い、主人公が大学生になった今も頻繁に会っているという事はやっぱり付き合っているのだろうか。普通の友達同士っていう考えも出来そうだけど。

 

まぁ、2人が幸せそうならよし。

 

「死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録」オススメな人

・心臓がそこそこに強い人

「連続殺人事件」だったり「大量殺人事件」だったり「自殺」だったりと様々な死が起きたり起きなかったりする小説です。この単語が苦手な人にはオススメできませんが「怖いお話大好き」という人には良いのかもしれません。けど、「怖いお話大好き」という人にはあまり怖さが強くないかもしれません。

 

ミステリー小説でありホラー小説ではありません、悪しからず

 

・純粋な良い人に出会いたい人

鈴子さんに会うだけという目的でこの本を読むのも良いんじゃないかなと。個人的には「フルーツバスケット」という漫画の本田透が浮かびました。本田透をちょっと騒がしくさせたら鈴子さんになると思ってる。

 

少なからず私は鈴子に出会えて良かったと思ってる。好きだ、例えショートヘアーでも。