武井ゆひ「届くなら、あの日見た空をもう一度」感想

武井ゆひ先生の「届くなら、あの日見た空をもう一度」を読みました。ネタバレを含む感想を書いているのでネタバレが苦手な方はお読み頂く事をお控えくださいませ。

武井ゆひ先生の作品は2019年8月現在この作品のみ。もちろん初読みの作家さんです。

 

表紙絵が凄く綺麗ってのが第一印象でした。比較的私は表紙買いを頻繁にする人間です。本は中身って良く言いますが表紙も本の一部だから表紙買いする事をどうかお許しいただきたい。

 

表紙の男性が主人公の高校1年生の要、女性がヒロインの元OLの菜乃花です。

 

最初、男性が菜乃花を振った桧山だと思いました。物語の進行的に「あれ、これ物凄く大人びてるけどもしかして要じゃないか」と思い、武井ゆひ先生のあとがきを読んで再び要という事を知りました。

 

全く表紙絵の要が高校1年生に見えないというトラップが敷かれている表紙絵ですが素敵です。2人のイラストも素敵ですが何よりも背景の空の透明感が素敵です。

 

 

あらすじ

ヒロインの菜乃花はある日職場の桧山から「好き」と伝えられる。桧山は世の女性が憧れるような素敵な男性で菜乃花はこの告白を解くに断る理由もなかったので付き合う事になる。

 

しかし、桧山の束縛が暴走してしまい別れる事になる。

 

ただ別れるだけなら良い物の、職場では菜乃花が体調不良で休んでいた際に「奈乃花が浮気をしていた」という噂が出た。実際に菜乃花は浮気していなかった物の職場で大変人気のある桧山には味方になる人物は居たが、菜乃花の味方は居なかった。

 

桧山も菜乃花が浮気をしているとは思っていなかった物の、その事に対して「どうして俺を頼ってくれないんだ」と怒る。

 

その結果菜乃花は3年勤めていた会社を辞める事になった。

 

会社を辞めてからはずっと部屋に引きこもりの生活を送り食事もほとんど摂らず睡眠も上手く摂れず、身だしなみに気を付ける事もしない自堕落な生活を送っていた。

 

そんな生活を送っている時、いつもはアラームしか鳴らない携帯に誰の番号か分からない着信が入る。その着信は何度も入り、ある日玄関のチャイムの音も鳴った。

 

人に会う事がほとんどなくなった菜乃花。出るか迷ったが訪ねて来た人の足音が遠ざかって行くのが聞こえ、その人に会いたいと思い玄関のドアを開ける。

 

玄関より遠ざかった先にいたのは実家の近所に住んでいた要という9歳下の男の子だった。

 

登場人物

ヒロイン:雪代菜乃花

大学進学と同時に上京し大学卒業後にそのまま東京の会社に就職しOLとなった。物凄く仕事が出来るわけでもなく、容姿も物凄く良いわけでもなくて普通の女性。

 

今の住んでいるマンションは窓から見える景色が気に入ったので選んだ。近所に二階建てのお気に入りのカフェもある。そのカフェで菜乃花は常連のお客様として店主に認識されている。

 

「早く結婚して欲しい」という願望の強い母親が居て、近所に住む修司が母親にとってはお気に入り。なので、菜乃花の母親は修司に上手く取り繕うとするも、修司には好きな人が居た。

 

桧山

菜之花と同じ職場で働いている男性。菜乃花より2歳上。仕事が出来て、容姿も良く菜乃花とは真逆のタイプの人間で取り巻きが出来る程職場の人からは大変人気がある。

 

しかし、職場では大人な姿だった桧山は実際に付き合うと「電話の相手の確認」や「他の男性との会話が許せない」等の束縛が大変強い男性だった。

 

菜乃花の実家の近所に住む高校生の男の子。菜乃花の9歳年下。修司という兄が居て、修司も大学生から東京で住んでおり就職も東京。

 

その2人を見て自分も早く大人になり東京へ行きたい思い、高校は東京の高校へ進学する事にする。東京の高校へ進学する際には中学校の成績が平均より高い水準を維持する等の親との約束ごとがあったが、それを守る程に意思が強い性格をしている。

 

中学校では美術部に所属しており絵を描く事が好きで力強いタッチの絵を描く。

 

横書きの本向けかもしれない

この本は縦書きの本です。しかしながら、読んでいる最中に思ったのは「これ絶対横書きの携帯小説の方が良かったんじゃないの?」という事。

 

携帯小説は文学じゃないという主張をされる方はこの本をオススメできません。しかし、現代に携帯小説というジャンルがあるという事は少なからずジャンルとしては生き残ってるという事です。そこは認めていただきたい。

 

「。」や「!」がやたらと多い文ってのは横書きの携帯小説の方が感情移入出来ると思うんだ、個人的意見ですが。

 

仮にこの本が横書きの本として出版されていたら「届くなら、あの日見た空をもう1度」に私は出会えていなかったと思います。その点を考えるとするのならば携帯小説ではなく文庫本で出てくれた事には多少感謝しています。

 

出会える本はなるべく出会っておきたいからね。

 

接点のない人とは付き合わない方が良い事を教えてくれた

桧山に告白された菜乃花は本当に何となく付き合う事を選びます。告白された際、菜乃花はこう思うのです。

 

お昼を一緒に食べに行ったこともなければ飲みの席でも言葉を交わした記憶もない。

なのに、なんで?

p.14

 

私のような読者は「なのに、なんで付き合う選択をしてしまったんだ」と思った事でしょう。だいたいこういう人は訳ありです。みなさまお気を付けを。

 

桧山が菜乃花を選んだ理由については「一目惚れ」と記載がありますが、個人的には「どこにでもいる菜乃花のような女性は支配しやすいから」という理由で菜乃花を選んだんじゃないかなって思ってます。

 

9歳差について考える

この物語の後半は25歳の菜乃花と高校進学を控えた中学3年生の恋愛物語になります。つまり、9歳差の恋愛です。

 

普通の9歳差の恋愛ならよくあるお話です。現代では2周りの24歳差で結婚する人もちらほら居るぐらいなので9歳差なんて可愛いもんです。

 

けど、要の年齢が約高校1年生の16歳ってのがネックになる。

 

これをすんなり受け入れる人はこの物語に抵抗を持たないはずですが、私はなかなか受け入れられなかった。もう少し年齢が近ければ良かったのになと。具体的には大学生で要が大学入学と共に東京に上京し菜乃花と再会すればまだ受け入れる事が出来た。

 

せめて菜乃花が「かなちゃんが大人になってからもう1回考えて私の事が好きなら…」と濁してエピローグで要が大人になった姿を書いたりする終わり方でも受け入れられたかなと。

 

流石にここまで私自身物語を新に作り上げていたら武井ゆひさんに申し訳ない。ごめんなさい。

 

以前読んだ古宮九時先生の「死を見る僕と、明日死ぬ僕の事件禄」も結構な年齢差だった。もちろん男性が年下で女性が年上。

mikanbook.hatenablog.jp

よく考えればこちらの作品の主人公とヒロインがそれぞれ要と菜乃花によく似ている。

 

「届くなら、あの日見た空をもう一度」をオススメな人

・一回り年下の男の子との恋愛を許せる人。

年下の男の子と付き合う感覚が分からい人はちょっとこの物語は厳しいかもしれない。逆に年下の男の子大好きな人にはオススメしたい。

 

・純粋な恋愛ストーリーを読みたい人

菜乃花は一応25歳で大人ですが、中身がそこそこに幼い心を所有しています。要はもちろん高校生なので幼い。その2人の恋愛なんですから純粋な真っ白な恋愛ストーリーです。