永田ガラ「内気な美女には野獣を」感想
永田ガラ先生の「内気な美女には野獣を」を読みました。ネタバレを含む感想を書いているのでネタバレが苦手な方はお読み頂く事をお控えくださいませ。
表紙絵の女の子はヒロインの如月そよ子。虎はオスカーという名前のオスの虎。2人共(1人と1匹)可愛いというのが印象。
表紙絵が「ザ・ライトノベル」という感じでキャラクターが全面に出てきて読みにくそうで購入するのに実は半年間ぐらい迷ったのですが購入しました。
ライトノベル嫌いじゃないんですけどね。寧ろライトノベル好きな人間なんですがあまり強いキャラクター個性が出てくると「何だかなぁ」の雰囲気で読み進めてしまう。
永田ガラ先生の作品は以前「信長の茶会」で読み「あぁ、歴史に詳しい作家さんなんだな。」という印象と「何故主にラノベの作品を出版しているメディアワークス文庫からこの作品を出版したのだろうか」という2つの印象を持っていました。
恐らく「信長の茶会」を読んでいる人が少数派だとは思うのですが、仮に「信長の茶会」から読み永田ガラ先生の作品の固定概念を作り上げている人は驚くかもしれません。
正直「内気な美女には野獣を」と「信長の茶会」を書いた人が同一人物とはちょっと信じられない。もしかして同姓同名の人なんじゃないかなと疑うレベル。
あらすじ
如月そよ子の叔母は議員に当選したが急死してしまった。そして、「後継は孫の如月そよ子にしてくれ」という遺言状があったのでそよ子が後継者となる。
しかし、そよ子の性格は自分から発言するような性格ではなく、政治についての知識も一切無いが周りに押し切られる形で議員となる。
仕事のほとんどを任せていた秘書の平川がある日腰痛のために入院する事になり、代わりにやって来た押川という名の秘書は平川とは違いそよ子に対して厳しい秘書だった。
登場人物
ヒロイン:如月そよ子
女優をやっていた母親そっくりの顔で「愛らしすぎる議員」として客寄せパンダのような議員をしていた。つまり、何も発言せず身なりだけを正していた。スケジュールも全て秘書に頼むぐらいに仕事に関心が無かった。
それではまずいとそよ子自身は思っていたので時間のある限りは図書館で自信が所属する鳥辺山市の歴史について調べていた。
そよ子の気晴らしと言えば市立鳥辺山動物園へ行きトラを見る事だった。その動物園には8匹のトラが居て他の動物園と比較すると大変多い量のトラが居る動物園。
そよ子はその8匹の中のトラに1匹自分に似たトラが居る事を知る。そのトラは常に1匹で居るトラだった。そのトラの目の前のベンチでそよ子はお昼ご飯を食べに行く事を楽しみにしていた。
平二郎
経営が傾きかけている不動産会社に勤めている。転職を考えて居た矢先に幼馴染から「会社をつをつくるから一緒に働かないか?」という声を掛けられる。
その仕事内容は人力車で人を運ぶ事。いわゆる人が動かすタクシー。しかし、なかなか事業が進まないので渋々不動産会社の社員を続けている。
押川(オスカー)
動物園のトラ。タビコという子猫が販売している薬により一時的に人となり押川という名前を名乗っている。
タビコは永田ガラ先生の別の作品「あなたのために、ネコはゆく」で登場しているタビコと一緒のネコで、タビコが成長して登場しているのが今回の作品「内気な美女には野獣を」です。
「市立鳥辺山動物園のトラを削減させる」という事を止める為に人になり、議員に近づくためにそよ子の秘書になった。そして、突然そよ子の秘書を辞めた。
ざっくりとした感想
何も考えなくてサラサラーって読んじゃえば面白い。「そよ子ちゃん可愛いー」と「押川かっこいいー」の2つだけ頭に入れて読むとかの領域で読めば本当に面白い作品だと思います。
正直面白さだったら以前読んだ永田ガラ先生の作品「信長の茶会」より面白い。けど、「信長の茶会」もそうなんですけど終わり方がちょっと微妙。
小説ってのは別に全部の内容を回収しなくても良いと思います。そして、回収出来なかった内容は読者の想像にお任せするってので全然良いと思います。けど、そのように著者は上手く仕向けて欲しいという個人的な我儘。申し訳ない。
エンディング
「内気な美女には野獣を」の終わり方は押川(オスカー)とそよ子がアナウンサー入門講座で押川が先生、そしてそよ子が生徒として再開します。
「わたし、やめなかったもの。ボイストレーニングも、演説の練習も、何もかも
」
「先生」 p299
最初の発言がそよ子。次の発言が押川。この2つの発言の後この物語は終了します。押川がそよ子の元から長期間離れてからの再開です。
いわゆる感動の再開っていう終わり方です。
普通に「そよ子、再び押川に出会えて良かったね」っと思った。この時に「私立鳥辺山動物園からそよ子が好きだったトラ(オスカー)が鰹﨑動物園へ行く途中に、そのトラが消えた」という事実をそよ子は知っていました。
たぶんこのエンディングの時点でそよ子は「押川=オスカー」という事は知らないはずでしょう、きっと。かつそよ子の性格を考えると尚更。
読者は「押川=オスカー」という事を知ってるのでどこかもどかしさを感じた事でしょう。少なからず私は思った。
平二郎登場する必要性あった?
確かに不動産会社としての役を全うする上では必要だと思うし、最後に人力車でそよ子を運ぶ役をする人は物語の繋ぎ上必要だったかもしれない。かつ、1番最初に名前が出るキャラクターはそよ子ではなく平二郎だったりもする。
けど、その2つの役をわざわざ平二郎が行わなくても他の名前出て来ないキャラクターが行っても良かったんじゃないかなと。
そよ子は最初平二郎が好きでした。最初は「そよ子と二郎の恋愛物語になるのか?」と期待したのです。
そして、押川が出てきた事により「押川にも何故か惹かれてしまう」という感じでそよ子のちょっと浮ついている感じが露わになります。
確かに付き合っても居ないので、浮気でも何でもないのですが、「一途になれよそよ子!」と思ってしまった。 そよ子自身も二郎の事が好きなはずなのに押川の事を考えてしまって「一途になれよ自分!」って思っていたはず。
(なんでわたし、あの人のことばかり考えて居るの)
p.143
そよ子の心情です。「あの人=押川」の事です。
考えたんですけど、そよ子が押川に惹かれる理由は多少の恋愛感情はあるのかもしれませんがいつも動物園へ行った際に見ていたオスカーなので何となく惹かれたんじゃないかなと。
そよ子がオスカーへ惹かれるのは、恋愛感情より友人感情に近い惹かれ方なんだと思う。
で、恋愛感情として惹かれているのは二郎なので、自作があるなら二郎との恋愛メインの作品になるんじゃないかなって個人的には予測してます。そして、押川が「なにをグダグダしてるんですか!告白しちゃいなさい!」みたいな感じでそよ子の背中を押してあげて欲しい。
その頃にはそよ子は議員じゃなくてアナウンサーに転身出来ているだろうか。現代の蓮舫さんの逆バージョンのようだ。
「内気な美女には野獣を」をオススメな人
・イケメンなトラに出会いたい人。
押川(イケメンなトラ)が個人的にはツボでした。トラじゃなくても人の状態で充分イケメンなんですが。
上記で「平二郎とくっつけ」と書きましたが、それは私のためでもあります。そよ子と押川がくっついたとしたらその瞬間から私はそよ子を嫉妬の対象として見続ける事でしょう。
・引っ込み思案だったヒロインの成長する物語を読みたい人。
恋愛ストーリーよりメインはそよ子の成長物語です。もちろん、押川に出会い押川に恋心(?)寄せなければそよ子は成長しなかったかもしれませんが。
物語の最初のそよ子なら砂金議員に「アナウンサーやりませんか?」と言われた際に「いえ、私には出来ませんさようなら」となっていた事でしょう。
しかし、自らアナウンサー養成講座を受けに行くまでになりました。大成長で感動してるのに、養成講座の講師が押川で二重に感動できる。